【撮影エピソード4】「本人役」はここから始まった

前回の「撮影エピソード3」でも触れましたが、「小名木川物語」は2013年春の段階ではまだストーリーも脚本も無いに等しい状態でしたが、桜とともに、恥ずかしながら勢いでクランクインしました。当初はドキュメンタリータッチのショートムービーを作るぐらいの意識だったので、勢いで行動できた、と後になって思います。深川出身の大西みつぐ監督が撮影したい風景を撮影することが真っ先に考えられました。その手始めが「さくらまつり」でした。
ただその時点で、主役の「進」を徳久ウィリアム、「紀子」を伊宝田隆子の両氏に演じてもらうことだけは決まっていたので、まず進と紀子の設定を粗々ながら考えました。徳久ウィリアムさんの撮影開始は、さくらまつりのこのカットからでした。予告編にも入っている、これです。

(作品より)

そして、深川を舞台にした映画だから、地元の人に出演してもらいたい、それが自分たちの映画らしい、という考えは最初からありました。主人公「進」の実家のシーンを撮影したのは、そんな最初期の2013年6月23日。まだ4回目の撮影でした。

進の父親を演じた新田善久さんです。新田さんは、江東区常盤1丁目に両面テープの加工工場を実際に構えています。当時製作の拠点としていた店「そら庵」が同じ町内にあり、町の活動を通じて新田さんと知り合いました。「新田さんに出てもらいたいね」「主人公の父親役?」。勝手な思いつきもいいところですが、新田さんの深みのあるご容貌にひかれて出演をお願いしました。

(作品より)

プロデューサーの東海の話によると、「しょうがねえなあ」とおっしゃりながら「芸能活動に踏み出すか!」とご快諾してくださったようです。しようもないお願いをOKしてくださって、今も感謝の念が尽きません。奥様は出演を遠慮されたので、母親役には同じ町内の青木博子さんに出演いただくことになりました。

この6月23日の撮影では、息子と久々に接する父母のシーンなどを何カットか撮影しました。新田さんは、この日は台詞はありませんでしたが、ご本人そのままの「町工場主」で「父親」という設定でカメラの前に立っていただきました。ただそれだけだったのですが、新田さんの存在感や人生経験、そして父親としての威厳のようなものがはっきりと感じられました。いつもの新田さんではない人が確かにそこに存在していました。そこに私たちは感動を覚えました。

父親役、新田善久さん(大西みつぐ撮影)

新田さんに「本人役」として出演していただいたことによって、「小名木川物語」はフィクションへの道を歩み始め、その道が徐々に太くなっていきました。機械を動かすシーンなどは、演技ではなく、新田さんとしての日常の動作なので、本作はドキュメンタリー要素のあるフィクションというのが一番正確かと思います。

当時はプロデューサーの東海が脚本も一人で担当して(後に共同制作となります)いましたが、東海は趣味で短編小説を書くなど創作のセンスがありました。舵取り役を務める本作がフィクションの方向へ進んでいったのは自然なことでした。

新田さんの素晴らしさを見て、何か面白いものが出来そうだという予感が深まりました。そしてさくらまつりの映像の美しさとともに、これはぜひ観てもらわなくては!という気持ちが高まっていきました。そうした思いがあったので、途中で挫折せずに済んだと思います。しかし、まだまだ認識が甘く、先は長かったのでした(笑)

新田さんの工場を再び撮影で訪れたのは、1年半以上先のことでした。そのとき私たちは、新田さんの素晴らしい演技に再び感銘を受けたのですが、今回はここまでで。

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